歯科衛生士として就職・転職活動をするとき、希望する歯科医院等が「厚生年金に加入しているか」を見ることはとても重要です。しかし、「厚生年金ってそもそも何?」「どういう仕組み?」「加入するのとしないのは、どちらが得?」といった様々な疑問が生じます。
この記事では、歯科衛生士が知っておくべき厚生年金の基礎知識、厚生年金の視点から見た就職・転職活動のポイント等を解説していきます。
厚生年金に関する基礎知識
厚生年金とは
いわゆる「会社員の年金」です。厚生年金に加入している企業などに勤務している人が対象であり、20歳未満でも勤めていれば自動的に加入します。保険料は給料に対して一定の保険料率を掛けて算出し、給付額は納付した保険料に応じて決定されます(つまり、お給料によって月々の支払う額と老後に受け取る額が異なるということです)。なお、厚生年金保険料の半額は企業等が負担することになっています。
厚生年金と国民年金の違い
国が運営する年金制度には「国民年金」と「厚生年金」の2つがあります。これは、その仕組みから「2階建て」と表現されています。(後述しますが、近年では確定拠出年金などが広がっており「3階建て」と表現されることもあります)。
国民年金は全ての国民を対象としたもので、厚生年金は企業等に雇用される人が国民年金と合わせて加入するものです。「2階建て」と表現されるのは、1階部分の基礎である国民年金に、2階部分の上乗せである厚生年金に加入することを意味しています。
働き方によって年金が変わる
年金の加入者は「被保険者」とされ、「第1号」「第2号」「第3号」に分類されます。第1号被保険者とは、国民年金だけに加入している人のことを指し、無職・学生・自営業・農業従事者などが含まれます。国民年金の保険料は物価や賃金などをもとに決定され、一律となっています。その金額は、平成31年度であれば月額16,410円となっています。
また、保険料の納付は20歳以上60歳未満の40年間(480ヵ月)と決められています。なお、保険料は毎月納付・6ヵ月分前納・1年度分前納があり、前納すると若干割安になります。無職等によって保険料が納められない場合には、免除や納付猶予を適応することが可能です。学生時代のことは忘れているかもしれませんが、納付猶予としていることが多いものです。
第2号被保険者とは、国民年金に加えて厚生年金にも加入している人のことです。保険料は年収によって変化しますが、企業等と第2号被保険者とが半分ずつ保険料を負担します。ちなみに、支払いは企業等がまとめて支払っており、後から第2号被保険者の給料などから差し引いています。
第3号被保険者とは、第2号被保険者に扶養されている配偶者のことです。第1号被保険者と同様に国民年金のみの加入ですが、扶養であるために保険料を支払う必要がありません。よくパートの方が所得を多くしすぎないように調整するのは、この兼ね合いが影響していることが多いです。
老後に給付される年金は「老齢年金」
年金のイメージといえば、老後に給付される「老齢年金」が多くを占めています。しかし、実際にはケガや病気になったときに支給される「障害年金」や、亡くなった遺族に給付される「遺族年金」があります。本記事では老齢年金のみに触れますが、給付される国民年金には3つの種類があることを覚えておきましょう。
老齢年金の給付
原則的に老齢年金は65歳以上に給付される、一般的によくイメージする年金です。これは、先述した国民年金から給付される「老齢基礎年金」と、厚生年金から給付される「老齢厚生年金」に分けられます。第1号被保険者は基本的に老齢基礎年金のみ、第2号被保険者は老齢基礎年金と老齢厚生年金の両者が給付されます。
最近では老後に必要な資産が老齢年金だけでは足りないことが指摘されています。自身で国民年金と厚生年金以外の必要分の保険に加入しておくようにすることが求められており、後述する三階建て部分が注目されています。
老齢基礎年金の受給額
老齢基礎年金の受給額は、「物価スライド方式」という毎年の物価の変動に合わせて決定される方式をとります。例えば、40年間すべて保険料を納付していた場合である満額の場合、平成29年度の受給額は年間780,100円、平成30年度の受給額は年間779,300円です。もちろん、納付していない期間があれば、ここからさらに減額されることになります。
老齢厚生年金の受給額
老齢厚生年金においても、老齢基礎年金と同様に原則的には65歳以上に給付されます。これは納めた保険料によって給付される金額が決まるため、たくさん納めている人であれば給付額がそれだけ多くなります。具体的金額は人によって異なるため、ここでは算出できません。
老齢年金の受給時期はズラせる
原則として65歳以上の給付となる老齢年金ですが、受給開始時期を繰り上げたり繰り下げたりすることが可能です。希望すれば60歳からの給付が可能ですが、繰り上げた月間×0.5%が減額され、その減額は生涯続きます。長生きしそうと感じる時には繰り上げは行わない方が良いでしょう。一方、繰り下げる場合もあります。
希望すれば70歳から給付されることも可能であり、その時には月額×0.7%の増額があります。ちなみに、老齢厚生年金の給付時期をズラすと、老齢基礎年金の給付時期もセットでズレることは覚えておきましょう。
ねんきん定期便とねんきんネットで状況を確認しよう
毎年の誕生日月に、日本年金機構から公的年金の加入者に対して「ねんきん定期便」が送られてきます。ここにはこれまでの年金加入記録が記載されており、50歳を越えると給付される年金の見込み額が確認できます。また、ネットで状況が確認できる「ねんきんネット」のアクセスキーも掲載されています。
公的年金制度のまとめ
ここまでから、下記のようなポイントをひとまず押さえておきましょう。
- 公的年金とは2種類あり、その仕組みから2階建てと表現される。「国民年金」は20歳以上で60歳未満の国民全員を対象とし、「厚生年金」は企業等で勤める人が加入出来るものである。
- 公的年金には、一般的に年金と聞いてイメージする「老齢年金」だけでなく、ケガや病気の際に給付される「障害年金」と、被保険者が無くなった時に遺族に給付される「遺族年金」がある。
- 国民年金の受給額は定額だが、厚生年金の受給額は納付額によって決定される。
- ねんきん定期便やねんきんネットで自身の年金状況を確認できる。
歯科衛生士の厚生年金
厚生年金加入の実際
歯科衛生士の求人情報を眺めていると、社会保険完備と記載されているものは非常に少ない印象を受けます。ここでいう社会保険完備とは、厚生年金・健康保険・労働者災害補償保険(いわゆる労災保険)・雇用保険の4つすべてに加入出来ることを意味します。歯科医院によっては、健康保険や厚生年金のどちらにも加入していない場合もあります。もし、厚生年金に加入していない場合には、あなた自身も厚生年金に加入することはできません。
国民健康保険にも加入していない場合
国民健康保険はケガや病気をしたときに全てが自己負担になってしまうため、加入せずに受診や入院したときには大きな出費となってしまいます。職場が健康保険に加入している場合には本人と職場が折半して、給料から自動的に天引きされるために気にする必要はありません。しかし、個人で納める場合には様々な手続きが必要になります。各種申請書や証明書等を持参し、各市区町村の国保年金課に申請に行かなければなりません。
厚生年金に加入していると、手取りは下がる
支給額から様々な控除(引かれた)された金額が実質の手取り額になります。給与明細には「控除項目」と書かれた項目が引かれる金額であり、健康保険料・厚生年金保険料・所得税・住民税・雇用保険料が代表的な項目です。つまり、厚生年金に加入している歯科医院では実質の手取りが少なくなってしまうのです。歯科医院は社会保険完備であることが少ないため、求人票をみるときにはこの点に注意が必要です。厚生年金に加入しているから手取りが少ないのか、それとも、厚生年金に加入していないのに手取りが少ないのかを見分けなければなりません。
社会保険完備していなければ、手取りは多い
一方、厚生年金を含めた社会保険完備をしていなければ、実質の手取りが多くなります。しかし、先述したように国民健康保険や国民年金保険を必要とするならば自己申請する必要があり、結局は一定の支払いが必要になってしまいます。先ほどと同様に、歯科医院の求人票を見る時には厚生年金を含めた社会保険完備について考慮したうえで、お給料がいくらになるのかを考えていきましょう。
結局、厚生年金に加入している方が得なの?
最近では「年金制度はもう破綻している」「納付した金額よりも、給付される金額の方が低い」ということも耳にすることが多くなりました。これには少子高齢化の問題が多く関わってきています。
ただ、これは非常に見極めが難しい問題ですので、現状では、厚生年金に加入できる環境であれば加入しておく方が無難といえるかもしれません。その代わり、後述するプラスアルファの対策を取っておくことに損はありませんので、ぜひ参考にされてください。
実際、2040年や2050年には財源が枯渇するとのニュースが多数見受けられます。これは少子高齢化といった問題だけでなく、納付された年金を使った資産運用が失敗している影響から生じています。また、厚生年金を納付する金額と給付される金額は加入期間・収入・給付年齢などの要因によって左右されるため、「いくら払っていくら貰えるのか?」という疑問は一概には答えることが出来ません。
しかし、1955年生まれまでは厚生年金の給付金額が高かったために「もらい得世代」と言われるほどでしたが、1960年生まれ以降は給付金額が下がってきているために「払い損世代」と言われるようになりました。以前は厚生年金に加入している歯科医院に勤めることは「得」や「老後は安心」とされてきましたが、これからはそうでなくなる可能性がゼロではない、という認識でいて頂いた方がいいのかもしれません。
歯科衛生士だから使える歯科医師国民年金基金
国民年金と厚生年金以外にも、歯科に特化した職能型の年金として「歯科医師国民年金基金」というものがあります。これは厚生年金と同じように基礎年金に上乗せすることが可能な年金です。
加入要件としては
- 国民年金の第1号被保険者または国民年金の任意加入被保険者(65歳まで)
- 歯科診療所に従事する歯科医師または従業員
- 他の国民年金基金に加入していないこと
が条件となっています。なお、国民年金の第1号被保険者であっても、国民年金の保険料の納付が免除されている方は加入することができません。
自由なプラン設定が可能であり、7種類の年金を組み合わせることで年金額や受け取り期間を自由に設定することができます。最初の1口目では終身年金に加入し、2口目以降に自由な設定をすることが可能です。歯科衛生士であれば、一度チェックしておくべき年金です。
話題の確定拠出年金個人型(iDeCo)も視野に入れよう
年金に関する話題を調べていると、必ず目にするのが「確定拠出年金個人型(iDeCo)」です。個人が気軽に運用できる年金で、毎月一定金額の掛け金を拠出して運用します。運用して得られた給付金が将来に年金として得られるようなイメージです。もちろん、運用の結果によって手にすることが出来る金額が変化します。ただし、自身で金融機関を選択し、そこで取り扱われている運用商品を選ぶ必要があるため、一定の知識が必要になります。
確定拠出年金個人型(iDeCo)にはメリットもデメリットもあります。メリットとしては、運用時の掛け金の全額が所得控除の対象となります。つまり、所得税と住民税が軽減されるのです。積立期間は長期にわたるため、節税効果はとても高いものになります。また、運用で生じた利益に対する税金が一切生じないため、効率よく資産を増やすことが可能になります。
デメリットとしては、資産運用であるために当然運用状況によっては資産が減る可能性もあります。必ずリスクについて理解したうえで進めるようにしましょう。また原則は60歳まで引き出せないことも重要なポイントです。人生ではお金を必要とする場面は多々ありますが、その時に引き出せないことで困ることもあります。これらをふまえて、視野に入れるようにしてみましょう。
おわりに
本記事では「歯科衛生士と厚生年金」をテーマに、歯科衛生士が知っておくべき厚生年金の基礎知識、関連した年金の知識、歯科衛生士が就職・転職する際に見るべきポイントについて解説しました。社会保険完備でない歯科医院が多いからこそ、厚生年金を含めた年金に関する知識を正しく持ち、将来に備えるようにしましょう。
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【著者:喜多 一馬】